チェックリストの作成方法
■対象分類群
『改訂新版 日本の野生植物 1~5』(大橋ほか 2015, 2016a, 2016b, 2017a, 2017b)に掲載されている8,358分類群を評価対象とした。これには日本産の種子植物のほか一部の外来植物や栽培植物も含まれる。
■生育立地情報の整備
大橋ほか(2015, 2016a, 2016b, 2017a, 2017b)の解説文から生育環境に関する部分を抜粋し,その記述から,具体的な生育環境を推定できる語句をキーワードとして選択・抽出した。類義語や表記のゆらぎを統合して44の生育立地区分に区分し,それぞれ該当するキーワードの有無を集計した。キーワードと生育立地区分との対応関係はチェックリストのnoteに記述した。なお,全生育立地の行列データは別途公開を予定している。本研究において湿生環境と判断した生育立地区分は,44区分中以下の12区分である:「海中」「河口・塩性湿地」「マングローブ」「水域」「止水域」「流水域」「河川・溝」「渓流・谷川」「湿地・湿原」「水辺」「耕作水田」「雪田・雪渓」。
■生育形情報の整備
生育形の情報は原則として角野(2014)の記述によった。「沈水」「浮遊」「浮葉」「抽水」および「湿生」の5項目とし,解説文中におけるこれらの生育形の有無に基づき,該当する生育形をとる場合には1,とらない場合には0とする行列データを作成した。なお,角野(2014)に掲載がない海草など一部の分類群については我々の判断で生育形情報を補完し,「生育形備考」欄にその旨を記述した。
これにより,292分類群について生育形情報を整備した。
■カテゴリの区分方法
生育立地と生育形の情報に基づいて全対象種を評価し,「水生1」「水生2」「湿生」「非湿生植物」「未評価」の5つに区分した。
「水生1」カテゴリには一般的に沈水・浮葉・浮遊の生育形をとる分類群を含む。湧水中でのみ沈水形をとるものは,特殊な条件下のみの現象とみなし,本カテゴリには含まない。
「水生2」カテゴリには通常は沈水・浮葉・浮遊の生育形をとらず抽水型または湿生となるものを配分した。また,湧水中でのみ沈水形をとる分類群は本カテゴリに含んだ。なお,生育形情報が整備された292分類群は,すべてが湿生環境を生育立地として含むものであった。
「湿生」カテゴリに含まれるものとして,生育立地の情報中に少なくとも1つ以上の湿生環境を含み,かつ「水生」および「抽水」カテゴリに該当しないもの,すなわち湿生環境に生育するが水中に生育することが一般的ではないものを区分した。したがって,当チェックリストで「湿生」カテゴリ該当する分類群には,湿生環境に限定して生育するもの以外も含む。
「非湿生」カテゴリには,生育立地情報が得られた植物のうち湿生環境に該当する立地を全く含まないものとした。
「未評価」カテゴリには大橋ほか( 2015, 2016a, 2016b, 2017a, 2017b),角野(2014)のいずれにも生育立地や生育形の情報がないものを含め,生育立地欄に「ND」と表記した。「未評価」カテゴリの分類群は生育環境に関する情報が得られていないため,湿生植物として扱うべき分類群が含まれている可能性がある。