日本産水生・湿生植物チェックリスト

日本産水生・湿生植物チェックリスト

首藤光太郎1)・山ノ内崇志2)・山口昌子1)・加藤 将3)・志賀 隆1)

1) 新潟大学教育学部
2) 福島大学共生システム理工学類
3) 東邦大学理学部

目的と内容

 本チェックリストは,日本国内に生育する水生・湿生維管束植物のチェックリストである。

 水辺では,水深や土壌湿度等の環境勾配に沿って,様々な植物がそれぞれの適応的な環境に,連続的に生育している。このため,ある植物種が水生,湿生,非湿生であるかの区別は文献によって異なってきた(例えば,角野 2014)。

 本チェックリストでは水生・湿生植物の定義を提案するとともに,これに基づいて水生・湿生植物を網羅的にリストすることを目的として作成した。すなわち,日本国内に生育する在来の種子植物(一部の外来・園芸植物を含む)8,358分類群を対象として,文献の記述をもとに生育形および生育立地の情報を整理し,これらをもとに沈水・浮遊・浮葉植物,抽水植物(以上を水生植物とした),および湿生植物を区分した。

水生・湿生植物の定義

 

 本チェックリストの水生・湿生植物の定義は,文献より得られる生育立地および生育形に関する情報による定義が可能なものとした。生育立地は,ラムサール条約による湿地の定義・分類(Ramsar Convention Secretariat 2016)に該当すると考えられる立地を「湿生環境」とし,それらの立地環境での生育の有無を評価した。生育立地の情報に生育形の情報を加味し,全対象種を以下の5つのカテゴリに区分した。


水生1 :通常の生育形として沈水・浮遊・浮葉のうちいずれか1つ以上をとる
水生2 :主に抽水状態で生育し,通常は沈水・浮遊・浮葉形とならない
湿生 :湿生環境に生育しうる植物のうち,水生・抽水カテゴリに該当しないもの
非湿生 :湿生環境を生育立地とせず,それ以外の環境が生育立地として記述されているもの
未評価 :生育形および生育環境に関する十分な情報が得られなかったもの

 

 これらのカテゴリは角野(1994)を参考に作成者らの判断で作成した。「水生1」には沈水・浮遊・浮葉の各生育形を含むが,これらはいずれも生育立地としての水環境に強く結びついており,一方で水位や生長段階に応じて生育形が相互に移行することが多く明確な区分が困難であったため統合した。「水生2」は,多くの抽水植物が水中だけでなく地表水のない陸上の湿った場所でも生育が可能である点を重視し,「水生1」から区分した。「湿生」は,湿生環境に生育するが,植物体が水中に浸かって生育することが一般的ではない植物とした。

 本チェックリストで採択した湿生環境は,極めて多様な立地環境を含むものであり,これらのカテゴリ区分はそれらを可能な限り包括的に扱うための定義設定である。そのため,個々の種の水域への適応状態などさらに詳細な解析を必要とする場合には,チェックリスト内に付属した生育形情報をはじめとした追加情報の併用を推奨する。

チェックリストの作成方法

■対象分類群

 『改訂新版 日本の野生植物 1~5』(大橋ほか 2015, 2016a, 2016b, 2017a, 2017b)に掲載されている8,358分類群を評価対象とした。これには日本産の種子植物のほか一部の外来植物や栽培植物も含まれる。

■生育立地情報の整備

 大橋ほか(2015, 2016a, 2016b, 2017a, 2017b)の解説文から生育環境に関する部分を抜粋し,その記述から,具体的な生育環境を推定できる語句をキーワードとして選択・抽出した。類義語や表記のゆらぎを統合して44の生育立地区分に区分し,それぞれ該当するキーワードの有無を集計した。キーワードと生育立地区分との対応関係はチェックリストのnoteに記述した。なお,全生育立地の行列データは別途公開を予定している。本研究において湿生環境と判断した生育立地区分は,44区分中以下の12区分である:「海中」「河口・塩性湿地」「マングローブ」「水域」「止水域」「流水域」「河川・溝」「渓流・谷川」「湿地・湿原」「水辺」「耕作水田」「雪田・雪渓」。

■生育形情報の整備

 生育形の情報は原則として角野(2014)の記述によった。「沈水」「浮遊」「浮葉」「抽水」および「湿生」の5項目とし,解説文中におけるこれらの生育形の有無に基づき,該当する生育形をとる場合には1,とらない場合には0とする行列データを作成した。なお,角野(2014)に掲載がない海草など一部の分類群については我々の判断で生育形情報を補完し,「生育形備考」欄にその旨を記述した。

 これにより,292分類群について生育形情報を整備した。

■カテゴリの区分方法

 生育立地と生育形の情報に基づいて全対象種を評価し,「水生1」「水生2」「湿生」「非湿生植物」「未評価」の5つに区分した。

 「水生1」カテゴリには一般的に沈水・浮葉・浮遊の生育形をとる分類群を含む。湧水中でのみ沈水形をとるものは,特殊な条件下のみの現象とみなし,本カテゴリには含まない。

 「水生2」カテゴリには通常は沈水・浮葉・浮遊の生育形をとらず抽水型または湿生となるものを配分した。また,湧水中でのみ沈水形をとる分類群は本カテゴリに含んだ。なお,生育形情報が整備された292分類群は,すべてが湿生環境を生育立地として含むものであった。

 「湿生」カテゴリに含まれるものとして,生育立地の情報中に少なくとも1つ以上の湿生環境を含み,かつ「水生」および「抽水」カテゴリに該当しないもの,すなわち湿生環境に生育するが水中に生育することが一般的ではないものを区分した。したがって,当チェックリストで「湿生」カテゴリ該当する分類群には,湿生環境に限定して生育するもの以外も含む。

 「非湿生」カテゴリには,生育立地情報が得られた植物のうち湿生環境に該当する立地を全く含まないものとした。

 「未評価」カテゴリには大橋ほか( 2015, 2016a, 2016b, 2017a, 2017b),角野(2014)のいずれにも生育立地や生育形の情報がないものを含め,生育立地欄に「ND」と表記した。「未評価」カテゴリの分類群は生育環境に関する情報が得られていないため,湿生植物として扱うべき分類群が含まれている可能性がある。

データの内容について

 チェックリストは以下の項目からなり,大橋ほか(2015, 2016a, 2016b, 2017a, 2017b)に掲載されている8,358分類群のデータを格納する。

データ項目説明
ID分類群に対するID(山ノ内ほか 2019)。
Family ID科名のID(山ノ内ほか 2019)。
Family name (JP)科の和名(山ノ内ほか 2019)。
common name標準的な和名(大橋ほか 2015, 2016a, 2016b, 2017a, 2017b)。
lato/stricto和名の示す範囲(広義・狭義)の情報を記述した。
scientific nameauthor nameを除く学名。
カテゴリ「水生1」「水生2」「湿生」「非湿生」「未評価」の5つに区分されたカテゴリ。
カテゴリ備考区分に使用した情報または我々の見解の適用状況。記述の内容についてはチェックリスト内のnoteを参照のこと。
湿生の生育立地該当する分類群が湿生環境に含まれる12の立地環境区分(海中~雪田・雪渓)を生育立地とするかどうかについての情報。生育立地とする場合には「1」,しない場合には「0」とした。生育立地情報が得られなかった分類群では,すべてのセルを「ND」(情報なし)とした。立地環境区分とキーワードについてはチェックリスト内のnoteを参照。
非湿地の生育立地非湿生環境と判断された立地環境区分の記述があった場合,その立地区分を記述した。複数の立地が該当する場合「/」で区切って併記した。
生育形「沈水」「浮遊」「浮葉」「抽水」「湿生」の5カテゴリを設け,該当する生育形をとる場合は「1」, とらない場合は「0」とした。また,生育形情報が得られなかったものは原則として「ND」とした。
生育形備考生育形の判定の際の備考を記した。 角野(2014)の解説文に生育形が明記されていない場合や,特殊な条件下でのみ特定の生育形をとる場合等に,備考として記述した。

整備されたデータの内訳は以下の通りとなった。
水生1 194分類群 (2.3%)
水生2 98分類群 (1.2%)
湿生 828分類群 (9.9%)
非湿生 3,411分類群 (40.8%)
未評価 3,827分類群 (45.8%)
合計 8,358分類群

利用規約

  • 本チェックリストは,(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(4-1705)「湿地の多面的価値評価軸の開発と広域評価に向けた情報基盤形成」により作成された。
  • 本リストのライセンスは, クリエイティブ・コモンズのCC BY 4.0 国際とする。出典を明示する限り自由な利用,加工,再配布を許可する。
  • 引用方法は以下の形を推奨する。
Shutoh, K., Yamanouchi, T., Yamaguchi, M., Kato, S., Shiga, T. 2019. A checklist of wetland plants in Japan ver. 1.00 (http://wetlands.info/tools/plantsdb/wetlandplants-checklist/)
首藤光太郎・山ノ内崇志・山口昌子・加藤 将・志賀 隆. 2019.  「日本産水生・湿生植物チェックリスト ver. 1.00」 (http://wetlands.info/tools/plantsdb/wetlandplants-checklist/)
  • 本リストに関するコメントは以下へご連絡ください。
 shiga[at]ed.niigata-u.ac.jp(新潟大学教育学部 志賀隆) ※ [at]を@に変換

引用文献およびURL


角野康郎. 1994. 日本水草図鑑. 文一総合出版, 東京.

角野康郎. 2014. ネイチャーガイド 日本の水草. 文一総合出版, 東京.

大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩(編). 2015. 改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科. 平凡社, 東京.

大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩(編). 2016a. 改訂新版 日本の野生植物 2 イネ科~イラクサ科. 平凡社, 東京.

大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩(編). 2016b. 改訂新版 日本の野生植物 3 バラ科~センダン科. 平凡社, 東京.

大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩(編). 2017a. 改訂新版 日本の野生植物 4 アオイ科~キョウチクトウ科. 平凡社, 東京.

大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩(編). 2017b. 改訂新版 日本の野生植物 5 ヒルガオ科~スイカズラ科. 平凡社, 東京.

Ramsar Convention Secretariat. 2016. An Introduction to the Convention on Wetlands. Ramsar Convention Secretariat, Gland (https://www.ramsar.org/sites/default/files/documents/library/manual6-2013-e.pdf, 2019年3月26日確認).

山ノ内崇志・首藤光太郎・大澤剛士・米倉浩司・加藤 将・志賀 隆. 2019. 「維管束植物和名チェックリスト ver. 1.00」 (https://www.gbif.jp/v2/activities/wamei_checklist.html, 2019年3月26日確認).

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