湿地は、多様な生物にハビタットを提供するとともに、脱窒などを通した水質の浄化、洪水の一次貯留などを通した水害の防止など、多様なサービスをもたらす存在である。しかし、その縮小・消失、それに伴う生物多様性の損失とさまざまな生態系サービスの低下が、世界的に問題視されている。
湿地の生物多様性の損失は21世紀に入ってもなお進行しており、大きな社会的損失を招いている。本研究では、重要な湿地を緊急かつ効果的に保全・再生するための科学的基盤を、実践的に構築する。
自然再生を効果的に進める上では、広域的な湿地の分布と生物多様性のデータを活用し、優先順位を考慮して計画を立案する必要がある。本研究では既存データと現地調査の結果を統合し、全国の湿地の植物・植生情報を網羅したGISデータベースを作成する。
さらに本研究では、湿地の多面的な機能や生態系サービスを評価する手法を開発する。関東平野のモデル地域において、農業生産、水質浄化機能、湖沼での漁業等の生態系サービスを評価し、相互関係を分析する。
湿地生態系の現状把握や自然再生の評価では、効果的・効率的なモニタリングが不可欠である。本研究では市民参加による湿地生態系モニタリング手法を開発する。市民参加型調査には、科学的知見の普及といった長所が期待できる一方、精度の管理等の課題がある。本研究では博物館と連携することにより、実践的に調査手法を改善する。
作成した湿地データベースや保全上重要な種の分布予測情報を活用し、具体的な保全・再生策の提案を行う。同時に、湿地生態系の多面的な機能・サービスの評価を行い、関係者で共有する方法を検討する。以上の結果に基づき、国内外の政策課題に答える情報・提言をとりまとめる。
コメントは受け付けていません。